大阪府立能勢高校スーパーグローバルハイスクール
スーパーグローバルハイスクール指定で農業高校が善戦(時事通信Agrio)
文部科学省では、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーを育成するため、グローバルな社会課題を発見・解決できる人材や、様々な国際舞台で活躍できる人材の育成に関する教育課程等の研究開発を行う高校をスーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定し、国内外の大学や企業,国際機関等との連携による質の高い教育課程等の開発・実践やその体制整備を進めるものである。研究は平成26年度から開始された。世界でグローバル化が進行する中で、日本の高校においてもグローバル人材の育成が問われ始め、主に全国の進学校がその指定を目指し凌ぎを削っている。
この文部科学省のSGH指定で農業高校の善戦が目立っている。過去2年度のSGH指定校の中に愛媛大学付属高校、筑波大学附属坂戸高校、大阪府立能勢高校の3校が指定を受けているが、これらはみな農業高校を前身とする高校だ。愛媛大学付属高校は、愛媛大学農学部の敷地と隣接した農業の系列をもつ総合学科高校であり、毎年愛媛大学農学部に多くの生徒が入学している。筑波大学付属坂戸高校も農業系をもつ総合学科であり、総合学科として、課題研究などの実績は、すばらしいものがある。大阪府立能勢高校も園芸学科を前身とした高校として農業に関わる国際協力の研究テーマを地道に積み重ねてきた。
能勢高校が記した大きな第一歩
大阪府立能勢高校の研究開発のテーマは「国際協力の現場で判断力と実践力を培うグローバル人材研究」である。国際協力を受ける当事者と支援する外部者の協働のあり方を理解することが大きな目的である。地元住民と外部者とは時として見解の相違を示すことがある。日本国内でも海外でもこの見解の相違を一致に至らせるためには高度な判断力と実践力が必要だ。そこを鍛えるプログラムを能勢高校は立案した。現地調査の舞台はマレーシアとモンゴル。マレーシアの沿岸部ではエビの養殖が進みマングローブの森が破壊されている。住民は生きるためにエビの養殖場開発を進めている。しかし、外部者はマングローブの森を保全すべきと住民に対して環境保護を叫ぶ。どちらが正しいのか。マレーシアで養殖されたエビの8割は日本へ輸出されている。我々はこの問題に対してただ手をこまねいているだけでよいのだろうか。そんな課題解決型授業をマレーシアのクアラルンプール大学の学生や現地NGOを交えて議論する。住民の意見を聞き、学生の意見を聞き、また、環境保護に立ち上がりマングローブの植林を進めるNGOの実践の現場を訪ね、それぞれの立場に立ったディベートの訓練をする。立場の相違を埋めるにはどうしたらよいのかを考える。我々能勢校生にできることはないのか。
一方、モンゴルではストリートチルドレン(寒冷地のためマンホールチルドレンと言われている)に着目。都市化の波で首都ウランバートル市では遊牧地域から都市へと流入する人たちが増えている。しかし、都市部の貧困層の拡大とともにマンホールチルドレンも増加。そのほとんどが母子家庭であり、マンホールチルドレンの住むマンホール周辺に母親もいる。このためマンホールチルドレンを救う手だてのひとつとして母親の自立支援が注目されている。どうやって母親の自立を支援すべきなのかを考える。我々能勢校生にできることはないのか。
マレーシアのNGOでは自然保護を図るためマングローブの植林を進めている。モンゴルのNGOでは母親の自立を図るため、日本の農業用パイプハウスを建設し、野菜栽培による自立を支援している。こうした現場を訪ねてどうすればよいのかを考える。 グローバルな世界でも日本の地域で行われている当たり前の農業が役に立つ場面がたくさんあることに気が付くことができれば大きな収穫である。TPP問題の影で農業による地域支援の議論が置き去りとされているが、日本農業がグローバルな世界の環境問題やジェンダー問題で果たせる役割があり、この現場に日本の若い世代が踏み込むことができることを示した、大きな第一歩を能勢高校が記している。