地域福祉の食と農と高校の連携のかたち(2015年6月)

はじめに

筆者は、昨年度農林水産省所管の‘地域における食と農と福祉の連携に関する調査事業’検討委員会の委員を務めることができた。そこで、食と農と福祉の連携という、所管官庁の枠組みを超えて論議しなければならない課題があった。そのために画期的な論議となった。しかし、集落の福祉や食と農の連携を論議する時に、地方創生の課題等から勘案しても、‘教育’や‘観光’や‘環境’という視点も含める必要があると考えている。特に、‘教育’について、地方の人材の養成と地域定着という視点から、職業高等学校の在り方に触れる必要があると考えている。

そこで、‘地域における食と農と福祉の連携’の委員会の報告書を補完するために次のような課題があることを論述してみたい。

第一 動向

地方創生戦略が国からのトップダウンであり地方分権の流れから反するのではないかとの指摘がある。しかし、いずれ消滅の可能性が想定される自治体があり、そうしないために地域自らが危機意識を持って戦略を考えることは重要な試みと考えている。格差が拡大するのだろうか。やる気のない自治体があればそれは拡大するのだろう。しかし、格差が拡大しないように縁辺部から、この地方創生戦略の答えを積極的に打ち返せないかと考えている。条件不利な状況のなか、厳しい地域課題に直面し、その問題を解決してこそ、日本をリードするモデルが生まれる。地方創生戦略を考える契機を作った島根県海士町の隠岐島前高校の取組はまさにそんな現場から生まれた。成長はいつも縁辺部から、条件不利地の問題意識から生まれる。

日本はコンパクトなまちづくりを進めようとしている。縁辺部は、無居住化しこのまま畳み込まれてしまうのだろうか。人口減少が進み、定員に達しない学校の統廃合も進んでいる。しかし、統廃合の対象となる高校がある地域では地域力維持を図るため、高校の存続を望む声も大きい。北海道立から市立に移管し、1クラスのみの調理科に特化し、生き残りを果たした三笠高校の事例をみると、「コンパクト化」というよりは「ダウンサイジング化」の中で“変異”が起きている。地域が必要と考えるものをどう存続するのかを地域自らが考え決断することが、今後増えてくるのだろうと思う。地方創生戦略は、生き残りを如何に果たすのかの決断を明確にする千載一遇のチャンスなのではないか。

第二 先行事例

地域福祉、地域農業への貢献で成果をあげ、生き残りを模索する高校と地域の連携する事例をいくつか紹介する。

鳥取県智頭町山形地区は、12集落で構成される人口1104人、高齢化率38.95%の地区。山形地区振興協議会を結成し、福祉と共育を旗印とした地域活性化策を推進している。特に福祉においては、生きがいと社会生活の質を維持・向上を果たすため、認知症0地区宣言を行い、「森のミニデイ」を運営し、地域での自主的な支え合いプラットホーム形成に成功している。「森のミニデイ」は介護保険を使わず、地域のみんなで支え合う組織であり、手作りのデイサービス事業が特徴である。特に高齢者や障がい者らが地域で暮らし続け、日中の居場所を確保するとともに、住民主導による地域の支え合い体制の構築を目的に、週2回の共食(昼食)や智頭農林高校生との協働で成果をあげている。同高校は県農業高校対抗料理コンクールでグランプリを受賞した料理などを提供するなど積極的な参加を続けている。また、地域住民も共食で使う食材を栽培、提供する等の地域福祉の食と農と高校の連携のかたちが見え始めている。こうした介護保険を活用しない地域自立のかたちは重要な示唆を与えている。

千葉県山武市にある千葉県立松尾高校は、福祉教育推進校として研究活動を深めてきた。山武郡内にある公立高校は現在6校あり、定員割れはしていないものの10年後の中学卒業生は半減し、定員割れによる高校の統廃合が懸念されている。こうした中、松尾高校は文部科学省のスーパーグローバルハイスクール(SGH)に「地域から考えるグローバルエイジング研究」をテーマに申請し、指定校入りを果たした。日本の地域福祉のあり方を学ぶとともに急激に高齢化するアジア諸国の高齢化施策を一緒に考えることを通して自分の役割を考える研究が主眼である。特に日本では団塊の世代が後期高齢者になり、医療費の高騰や介護人材不足が懸念される中、海外との交流を通し、積極的な留学生の受入や不足する介護福祉人材の供給基地として高校の存続を図れないかを合わせて研究するものだ。地域福祉と高校とのグローバルな連携のあり方の模索が始まっている。

大阪府能勢町にある大阪府立能勢高校もSGH指定校入りを果たした。ここは農業高校が前身の高校であり、農業でできることをグローバルな現場で考えてみようというのが大きなテーマである。特にモンゴルではウランバートル市で増加するストリートチルドレンの存在をシングルマザーの自立による解消を目指し、農業ハウスによる農業支援を行うことや、マレーシアにおけるマングローブ林の伐採やその後に行われるエビ養殖田としての乱開発や環境保護を考えることにより、地域でできることを考える。養殖されたエビの8割は日本への輸出であり、我々が当事者であることを踏まえ、マングローブ林の植林活動への参加を通して地域を考えるものである。

まとめ

近年、高校の地域で果たす役割は大きくなってきている。グローバルに、ローカルに課題を見出す視点、課題の解決に向け切り開く力量が問われている。まさに食と農と福祉といった横断的な視点から糸口を見出し、考えてゆくことが必須の時代となっている。高校は地域力維持のための構成要素として、担い手を輩出する拠点として大きな存在になり始めている。‘地域における食と農と福祉の連携’の委員会の検討結果に上記の視点を付け加えることを提起したい。