過疎地域における起業による定住は地域力創造に大きく寄与する
愛媛県今治市地域おこし協力隊報告
総務省の最新の地域おこし協力隊のアンケート(平成25年度地域おこし協力隊の定住状況等に係るアンケート結果)によると、3年の任期を終えた協力隊員の6割が定住もしく地域協力活動に従事するという。そのうち、起業9%、就業53%、就農26%となっており、起業による定住は難しいハードルであることを示している。20代で地域おこし協力隊に入った隊員は地域内での就業が望ましいと思う。大学新卒、大学院新卒と言った隊員は社会経験を積む必要がある。ハードルが高い起業を地域で行うのは30代以上が望ましいと考える。家族がいると夫婦で話し合う機会が多いせいか定住へ向けた覚悟ができている隊員が多い。30代という若さで家族として地域に定住することが覚悟できれば地域に定住できる。苦しい時も家族のため頑張れるはずだからだ。またこうした地域に定住する覚悟のある隊員は3年間の任期を無駄に過ごさず能力を高めることができ、起業に向けた質の高い準備ができるのではないか。こうした見本となる元地域おこし協力隊員は全国各地で生まれている。地域おこし協力隊の成果とは今まで培ってきた経験の延長線上で過疎地といえどもその技術を活かして、実に創造的に起業できた彼らのような存在なのではないか。新たな担い手が生まれれば過疎地域といえども起業による定住は地域力創造に大きく寄与する。
愛媛県今治市の新・地域再生マネージャー事業で挑んできたことはまさにこの難しいハードルへの挑戦であった。そして今治市の地域おこし協力隊においても数は少ないものの大三島地区でキッチンカーによる巡回カフェの社会実験を積み上げている松本隊員、宮窪地区で飲食を伴う拠点づくりを進める川崎隊員等が自費を投入しての起業をめざしており今後の活動が注目される。起業・定住によるハードルは高いが是非頑張って欲しい。
上浦地区で就農に向け頑張っている鍋島隊員は、しまなみ海道の観光ポテンシャルを見据えた観光農業を目指す就農形態に挑んでおり非常に特徴的である。耕作放棄地となったミカン畑の再生、炭焼き小屋の復活による地域エネルギーの活用など地域課題に対置し、農業、地域の教育プログラム化で定住を目論んでいることは称賛に値する。しかしここに定住するためにはもう少し安定的な収入が得られる就業も求めなければならない。鍋島隊員は20代と若いため地域の観光支援組織への“就業”と“就農”という兼業のビジネス・モデルが見えてきている。今後、行政サービスの集約化とそれにともなう住民サービスの低減が進み、地域を支える民間人材がクローズアップされる時期がやってくる。離島という簡単に行けない場所にある地域では行政サービスの役割の一旦を担える民間人材の養成は考えるべきで、こうした行政負担のかからない役割分担と就農などとの兼業化によって新たな定住のかたちが見えてくる。今治市島しょ部はこうした職業開発の先端にあり、有能な外部人材誘致に向け、地域おこし協力隊制度の運用を継続的に進めてゆく必要があるだろう。若い外部人材がどうやって定住できるかも退任後もしっかり見守るべきであろう。伯方地区に赴任した増元隊員はツリーイング等のアウトドア活動を指導できる人材に成長している。しかし彼も同様でありそれだけでは定住はできないだろう。地域を支える職能を見出しこうしたサービスを担う民間人材として成長してほしいと考える。今後の彼の活動のあり方にも注目してゆきたい。
自立すること、地域で家族とともに定住することは過疎地ではそう簡単ではない。しかし、今まで地域に仕事がないから都会へと向かった人たちから見ると、都市でノウハウを身に付け30代で帰省というライフサイクルの確立が見えてこないだろうか。地域おこし協力隊の卒業生たちが地域での起業により生活ができること、収益を上げることができることを見せてくれている。こうした新たなビジネス・モデルの発展は必ずや日本の成長に寄与する。我々がいる場所はフロンティアであるからだ。2013年11月6日に行われた愛媛県地域おこし協力隊交流研修会での私の講評を以下に記す。
『起業して32年。もうすぐ60歳。 不安定でずっと不安感がつきまとったが慣れた。 「捨てる神あれば拾う神あり」でなんとか続いてきた。苦しい時も何度もあったが、何とかなるとの思いであっという間の30年が過ぎ去った感がある。本日聞いた地域おこし活動はみなレベルが高い。しかし、もう一歩前へ進む必要があるのではないか。我々に与えられた3年間という時間はフロンティアを切り開く能力が問われている。宮崎県小林市で養蜂業の専業で定住を目指す協力隊員がいる。 高知県いの町でシイタケ栽培の専業で定住を目指す隊員がいる。今までその地域では百業の一環として行われてきた生業。この間隙をぬって専業化する協力隊員に興味がある。彼らこそフロンティア。一歩前へ。 フロンティア、フロンティアへ。』