特定地域づくり事業協同組合解説(2019年12月)

特定地域づくり事業協同組合解説

地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律が国会を通過した。特定地域づくり協同組合が創設される。過疎対策の色合いが強く総務省所管となった。先進事例としてはアマホールディングス株式会社(島根県海士町)がある。人材派遣大手の株式会社パソナが社員を正式雇用し会社に派遣しているが、いろいろな仕事をつなぎ、職業を作っていると言える。過疎地域では仕事をつないでも職業としての成立が難しい。そこで仕事をつなぐ役目の事業協同組合に対して不足分を国と市町村が穴埋めするという事業と考えてよいのではないか。卑近な言い方を許していただければ、組合に登録すれば集落営農の草刈りで働いた集落営農の人たちにも関係人口として働いた都市住民にも助成される。

法案協議の中で地域連携法人として検討されたが、経験を蓄積してきた既存の組合制度を流用しようと特定地域づくり事業協同組合となったとのことだ。地域人口の急減に直面している地域を今回改めて規定はせず、過疎地域全体を対象とすると考えてよいのではないか。施行は5月末日から。それ以降に組合組成を行うことになる。今後、総務省はガイドライン及び総務省令を発表する予定だ。まだ決まっていないことが多いが、地方創生戦略の改定時期を迎えており、戦略に反映する必要もあり、これまで得た情報を共有する。確定していないことも多く、聞き間違いもあり、不正確な情報配信となる可能性があるが速報性を重視した。この点はご容赦いただきたい。

特定地域づくり事業協同組合の目的

これまでの地域おこし協力隊、シルバーボランティア、地域おこし企業人等々の流れは地方にとって大切な傾向である。地方は今や大半が人口減少地域であり、大都市から地方へという働き方や人口の流れの変化が必要であることは当然である。この法律は、まず深刻な人口急減地域について自助努力を前提に財政支援を強化するとともに、ひいては長期的に住みやすい地方へ人口が回帰するための重要な役割を担うものである。数百の自治体が消滅すれば、自然は荒廃し、有害鳥獣は 跋扈(ばっこ)し、災害が頻発するのみならず、住民の集団移転のコストは計り知れないほど巨額になる。事業協同組合は自ら特定の事業を行うことはない。地域にはそれぞれの組織、企業がある。それらの民業を事業協同組合が人材供給によって支援することがこの法律の目的である。

中小企業等協同組合法の規制緩和

法の所管は、一部労働者派遣事業の届出等にかかる部分が厚労省の所管となる以外は総務省となる。中小企業等協同組合法の事業協同組合となるが、中小企業庁(経済産業省)は共管とはならず、総務省が決めた申請書様式で都道府県が許認可を行う。事業協同組合は4人以上の中小企業者によって設立でき、共同事業を通じて組合員が行う事業を補完・支援するための事業を実施するものであるが、この対象者に中小企業者の他に農家、漁師などが入る。組合員相互の共助ではなく組合登録者に仕事を提供することができる。つまり大幅な事業協同組合の規制緩和が行われている。事業範囲は都道府県の区域を越えない地区と法律で規定している。市町村内外に必要に応じて、任意にいくつも組合を作れない。地域社会の維持及び地域経済の活性化に特に資すると認められることや行おうとする特定地域づくり事業を確実に遂行するに足りる経理的及び技術的な基礎を有すると認められることが設立に向け問われる。農業協同組合、森林組合、漁業協同組合、商工会議所、商工会その他の事業者の十分な連携協力体制も求められる。併せて市町村の長の意見を聴かなければならない。このため、組合の乱立とはならないだろう。

地方公務員の副業の規制緩和

一方、一般職の地方公務員は、特定地域づくり事業に従事することが本務の遂行に支障がないと任命権者において認める場合には、給与を受け、又は受けないで、特定地域づくり事業に従事することができるとこの法律は規定している。今まで公務員の副業を市町村が実施する場合は個々の市町村の条例改正などを議会に諮る必要であったが、今回の法律には副業が明記されており、これは大きな規制緩和と言える。公務員の派遣は今回組成される事業協同組合を通して、派遣先の特定地域づくり事業に参画できることになる。

事務局長は就職氷河期世代の就任を

特定地域づくり事業協同組合は従業員を通年雇用する。地域内事業者(商工会、農協、漁協等)は出資、賦課金負担を行い、同組合を維持する。年度末に組合維持にかかった費用をまとめて国と市町村が助成する。マルチワーカーの雇用のため、12か月間同じ職場で仕事をすることにならない。組合に雇用された従業員はA社、B社、C社と巡回する。この派遣従業員の仕組みにより、安定的な職能を地域に確立することができる。従業員は若い移住した人たちのみならず、高校を卒業し、都会へと流出していた地元の若者や高齢の移住者等いわゆるすべての住民が対象となり、また都会に住む関係人口も対象となる。つまり農業に従事したい旅人も組合に登録すれば報酬に国や市町村からの助成を加算することができる。

特定地域づくり事業協同組合の運営経費は国と市町村の助成対象である。組合運営の長、いわゆる事務局長も助成対象となる模様だ。役所や商工会の定年退職者がこの地位に就くことが多くみられるが、このポストは内外を問わず、就職氷河期世代の就任を積極的に模索してみてはどうか。国の助成はあくまで組合運営に対してであり、従業員個人に対する助成ではない。地域おこし協力隊の卒業生が起業するまでの過渡的な収入確保等、様々な雇用、多業の通年化に対応する。なお、建設業への派遣は従前より禁止されており、特定地域づくり事業協同組合においても建設業への派遣は行えない。

“集落貢献法人”の育成と連動すべき

特定地域づくり事業協同組合は特定地域づくり事業を指定しそこに人財を派遣する。特定地域づくり事業協同組合の人財は地域産業の人材ニーズの求めに応じて派遣される。農業、漁業、林業、福祉、商業等が派遣先だ。しかし、これだけでは好循環に結び付かない。ここは逆手にとって既存産業への派遣だけではなく、地域を支える企業を創設して育成ができる絶好のチャンスを迎えているとも言えないだろうか。これを私は集落貢献法人と言っている。集落貢献法人を創設し特定地域づくり事業に指定してみてはどうだろうか。

神奈川県横須賀市にある事業協同組合追浜商盛会(追浜商店街)はワインの製造免許を取得し、1か月に1回ボランティアでワインを仕込んでおり、この収益で関東学院大学の学生が参加するまちなか研究室を運営している。このような自立へ向けた取組みやまちづくりの資金を獲得する仕組みの構築が持続的な集落運営にとって大切である。集落貢献法人とは、公共が施設整備を図るものの、地域貢献として、収益の一部を集落に分配し、地域自立に寄与する法人として位置づけられないか。すべてが事業として採算性を確保できるとは限らないが、特定地域づくり事業協同組合がこうしたイノベーションを多く仕掛け、持続可能なコミュニティ形成のために、次世代の人財育成を行うことが肝要である。また、こうした法人への特定地域づくり事業協同組合からの派遣や公務員の無償、有償による副業参加により企業収益を生み出し、集落維持の役割を担ってほしい。

特定地域づくり事業協同組合は金融ノウハウを駆使すべき

収益を稼ぎ、その収益により集落を維持するビジネスの創造は公設民営で可能である。福島県会津若松市が建設したスマートシティAiCT は4階建て延べ床面積4700平方メートルのうち、オフィス部分にIT系外資企業アクセンチュアが長期賃貸契約を結び入居し、250人の従業員が東京から引っ越してきた。この建物は地方創生拠点整備交付金を活用しDBO方式で建設された。DBOとはデザイン・ビルド・オペレートの頭文字をつなげた事業方式のことで、設計・建設・運営を地方公共団体が民間事業者に一括発注するものである。

ここで登場する特別目的会社(SPC)は、会津若松市の公募に応じて設計、建設、運営を行うが事業への出資も行った。SPCが出資によって得た共有持分は、建物完成直後に会津若松市へ所有権を移転し、公共施設が完成し、公設民営が可能となる。その後、SPCが同施設の管理運営主体となり、入居するIT企業と長期賃貸契約を締結し、投資した事業の回収を進め、公設民営が完成する。これがDBO方式と言われるものだ。

この方式が使えるのではないか。集落のポテンシャルに応じて、直売所、ホテル、ワインやウィスキーの酒造等の大き目な産業の創設ができるのではないか。事業の赤字は人件費が主な要因だ。ここを特別地域づくり事業協同組合の人件費助成や公務員の副業や無報酬従事によって賄うことができる。これにより集落貢献法人のスタートアップができるのではないか。そして地域力維持に必要な資金を企業が地域に投下する好循環ができないものか。

また、有休施設の積極的な利活用による創業や補助事業に頼らない事業も積極的にトライすべきだ。中小機構の高度化事業による組合融資や総務省のローカル10000プロジェクトの無保証融資などを駆使してリスクを軽減し、民間で事業化することも検討範囲だ。特別地域づくり事業協同組合は金融に関する知識を深めてほしい。

集落貢献法人の起業は若者に任せるべき

集落貢献法人も外部の若者に任せてみてはどうかと思う。新潟県佐渡市で天領盃酒造を買収し事業承継した加登仙一さんは日本酒造の原料となる酒米を自らが作り始めている。山形県鶴岡市で80億円を生み出しホテルを創業したヤマガタデザインの山中大介さんは、自らがホテルで使う野菜の生産を始めている。千葉県多古町でハラールセントラルキッチンやカット野菜工場を操業しているミヤ・マムンさんは自らが野菜の生産をしている。彼らは地域資源やポテンシャルを活かして大き目な6次化に成功している。そしてリーダー的な人財である彼らに多くの若者が集結し、つながり仕事が拡大している。地域で一連の産業を起こせる若い人財と協働し、地域に雇用を生み、集落維持に貢献する仕組みを特定地域づくり事業協同組合のもとで考えることが重要ではないか。

人口減少する地域は人材が不足している。このため、集落貢献法人を運営する若者の誘致は必須である。計画段階から若者の参加を得て事業を本格化すべきだ。この協議を事業協同組合が推進すべきだ。集落貢献法人で、成功事例が出たら、他の地域でもいい事例が生まれ、やがて過疎地は競争力を持ち始める。衰退、撤退からのV字回復が期待できるのではないか。

ヨコ串人財を果たして派遣と呼ぶべきか

この法律は、人口急減地域にある小さなしごとを集め通年化し、新たな雇用の受け皿を作ることが大きな目的だ。つまり新たな雇用者像の開拓でもある。しかし、これを派遣と呼んでいいのかは疑問である。既存の派遣というかたちであると使い勝手の良い人材にならないか心配である。あまりいい立場とは言えないのではないか。暑い日は草刈り、寒い日は雪かきではしんどすぎる。あっちも行ってこっちも行ってと言われ、そこでお金がそこそこもらえるという働き方なら地域外から人が集まらないのではないか。だから通年を通して誇りが持てる職種と労働スタイルと名称でないと非正規雇用、就職氷河期世代は救えないのではないか。

筆者は地域内にホテルやウィスキー蒸溜所等のノウハウを必要とする職場を作ったらどうかと提案する。自らが専門家として農業に従事し、自らがワインやウィスキーを造り、自らがホテルサービスを行い給仕する。これを専門家として行うことも軽微な労働でつなげることもできる。この労働自身がまちづくりと言える。つまり人口急減地域に商品の6次産業化ではなく、職能の6次産業化を担う人財を作ることが重要ではないか。活躍の場を作ることが重要ではないか。そこがポイントだ。

このためそれは派遣という名前ではないだろう。マルチワーカー、6次化プロフェッショナル、ヨコ串人財ともいわれるような職能で、新事業への投資を決め、融資を受け、返済する当事者となってはじめて、定住する覚悟が生まれる人財なのではないか。

様々な事業に派遣される登録者を外国人の労働派遣と同じように単なる労働力としてしか見ないと失敗するのだろう。この制度は派遣法をベースに、よりよい仕事を創生するために協同組合法と公務員の副業の規制緩和が同時に行われた。実に画期的な法制度が誕生したと言える。この制度を前に地域が知恵を絞ることが肝要である。制度に命を吹き込むことができるはずだ。



今後、この法律を地域において機能させるためには、地域が知恵を絞って具体化させる事例を見つめ続けるとともに、制度的なハードルに関して発言してゆこうと考えている。

 

日本酒蔵を買収し酒米を作り始めた天領盃酒造の加登仙一さん(新潟県佐渡市)
ホテルを創業し農業を始めたヤマガタデザインの山中大介さん(山形県鶴岡市)
野菜を作りハラールセントラルキッチンを操業し年商43億円のミヤ・マムンさん(千葉県多古町)