まちづくり連携組織、地域を支える人たち(2013年5月)
経済産業省の中心市街地活性化事業で登場するのがTMO;タウンマネージメント機関(Town Management Organization,)である。中心市街地 における商業まちづくりをマネージメント(運営・管理)する機関をいう。総務省ではRMO(地域運営組織)による総合生活支援サービスの社会実験が始まっている。我が国の各地域で生じている過疎化・高齢化・人口減少という問題は、各地域で暮らす人々の生活機能を少しずつ不十分なものにし、最終的には生活機能が成り立たない状況にまで至る地域も現れている。このような状況にあって、地域で暮らす人々が中心となって形成する小規模なコミュニティ組織が展開する、生活機能を支える事業(総合生活支援サービス)について社会実験がはじまっているのだ。市町村の広域合併による縁辺部の疲弊や中心市街地の空洞化などで行政の手の届かないところで活動する住民組織、まちづくり連携組織の必要性が問われ、生業との兼業やコミュニティビジネスによって自立するまちづくり連携組織が誕生している。
大学商店街連携を酒造で支える協同組合追浜商盛会(神奈川県横須賀市)
事業協同組合追浜商盛会が1カ月に1回ボランティアでワイン仕込んでその収益でまちづくりをしよう、そんな試みをはじめて10年目を迎える。商店街の事業協同組合が果実酒製造免許を取得したのは日本ではじめてのこと。2004年のことだった。ワインの製造にはブドウ畑を持つことが必須であったが1999年にその規制が緩和され、濃縮果汁だけでワインを仕込んでよいことになった。このため通年でワインを仕込むことが可能になり、その分小さな製造設備で都会の真ん中での仕込みができるようになった。当初は追浜商店街の空き店舗の6畳一間のような小さなスペースで仕込んでいた。創業に必要な資金300万円は一口1万円のファンドで集めた。こうして得られる収益で家賃を払い、関東学院大学のまちなか研究室を運営。学生の商店街や地域の活動の拠点を提供した。今はその教授が大学を退職し、この拠点でNPOを創設。まちづくりの先頭に立っている。まちづくりに対して補助金をほとんど使わずにできるこの商店街組織は日本ではじめて商店街におけるソーシャルビジネスを手に入れた商店街でもある。
買い物難民を徒歩圏内マーケットで支える企業組合青空中央企画(熊本県荒尾市)
私は熊本県荒尾市、三池炭鉱の炭住街だったこのまちにふるさと財団の地域再生マネージャーとして呼ばれた。今から9年前。当時は小泉内閣のころ、地域再生事業も始まったばかり。私は追浜商店街でまちなか研究室「追浜こみゅに亭」の自立のためワインの起業をずっと手伝っていた。当時、90年代から続く不況の最深部に私は沈み込み仕事は少なく、このオファーは実にありがたかった。エネルギーがたまっていた。仕事の発露がここ熊本県荒尾市にあった。荒尾市の有効求人倍率0.33は2004年当時の全国最低を記録。私は追浜こみゅに亭で行ってきた自立型のまちなか研究室と同じ“ワインを仕込みながら”中央商店街の人たちと雇用創造の研究室を設立するはずだった。ところが商店街の人たちがこのスペースで八百屋をやりたいと話す。だって1キロ先には100億円売る大きなショッピングモールがあって、それでこの商店街の八百屋さんも肉屋さんも魚屋さんもつぶれてしまったんじゃない。どうして八百屋なんて始めるのか私はまったく意に介せなかったがみんなの申し出に合意して直売所を開設。しかし直売所オープン初日に彼らが言っていることが理解できた。買い物にやってきたおばあさんが「1キロ先にあるショッピングモールに歩いてゆけない。1週間に一回タクシーに乗って買い物に行っていた。しばらく青物を食べていない。ここに八百屋さんを作ってくれてありがとう」。私たちは日本ではじめて、やがて日本で大きな問題としてクローズアップされる「買い物難民」を発見することになる。企業組合青空中央企画という連携組織は商店街の有志により設立された。写真屋さん、金物屋さん、自転車屋さん、ガス屋さん、電気屋さんの5名によって設立された。彼らは「まちなか研究室青研」という直売所を創業して9年目に入る。
中小漁港をマイナー魚で支える企業組合宇佐もん工房(高知県土佐市)
商工会青年部が中心となって協議会を設立しうるめイワシのブランド化を推進。“宇佐もんや”という空き店舗を活用した魚屋から始まった冷凍3枚下しの工業化。その後彼ら宇佐の若者たちは企業組合宇佐もん工房を起業し三枚おろしの新工場を設立した。当然だが漁港背後地は水産加工業の適地。しかし今や中小漁港の背後地にある水産加工会社にはトラックで魚介類が運ばれる時代。これが中小漁港の存在感を薄めている要因のひとつともなっている。しかし、陸路が整備されていればこそ大都市のスーパーマーケット等とつながることもでき、マイナー魚の新たな市場が切開かれるともいえる。新たな水産工場が起業できると漁港は元気を取り戻せる。 水産工場は高知県や土佐市の助成を受け建設した。宇佐の住民からも500万円の資金を集めた。社会実験で小さな資金循環や小さな成功を得て再投資へとつなげた。彼らは1年半という短期間で絵に描いたような事業の成長を見せた。これはひとえに土佐市宇佐の人たちが頑張ったことによる。高知県の産業振興施策の代表的な成功例となり、うるめイワシの加工品が農林水産省食品産業局長賞を受賞。うるめイワシのまつりを自主運営するなどまちづくり連携組織としての役割をしっかりこなしている。地域創業、チーム起業の勝利。ウルメイワシを選んだ立ち位置の勝利。
離島住民の生活を観光で支えるNPOアクションアイランド(愛媛県今治市)
サイクリストの聖地として脚光を浴びる橋梁でつながったしまなみ海道の周辺には生活支援サービスを必要とする離島が多数存在する。大島(今治市旧吉海町)沖合に位置する津島は人口26人、世帯数18世帯、平均年齢83歳の限界集落であり、生活を支える定期航路は1日3往復のみと少なく、総合的な生活支援を必要としているとともに観光ポテンシャルを有するしまなみ海道の恩恵を受けられない状況にある。旧吉海町にはしまなみ海道の橋がつながる以前から海上タクシー(小型船舶、10人乗り)があり、しまなみ海道の少人数の観光客の津島への誘客を図ることは比較的容易であるが運賃が高価なため生活支援に活用することはなじまない。このためNPOアクションアイランドが海上タクシーを観光流動に活用できることを観光客に広く周知し、観光受け入れ体制の整備を推進している。観光客受け入れ時に並行して集落住民の見守り、買い物代行サービス、共食や島民の農水産加工品等の島外販売を行う環境整備を進めている。 今年9月には29年ぶりに秋祭りが復活した。島民やNPOらが本番に向け準備を進め地元の大山積神社参道の清掃やみこしの状態を確認し、秋祭りを挙行した。当日は150名の島外者も訪問、久々に島を出た子供たちがその子供たちを連れて島に戻り神輿をかついだ。離島の生活支援を今後どうしてゆくのか。こうした生活支援を支える地域組織の育成が急務だ。