地域と教育とのつながりで新たな成長を生む(2013年12月)

英語合宿(秋田県由利本荘市)

2014年度から文部科学省でスーパーグローバルハイスクール(SGH)が創設される。教育の現場の各所でグローバル化が試みられてきたが、この流れを作った現場のひとつは間違いなく、秋田県立国際教養大学の存在、中島嶺雄元学長(故人)の存在だ。中島元学長は東京外国語大学学長選で2度破れた失意の中、秋田県も理想の大学像を追い求めていたところに出会い新設大学を実現したと聞く。英語での授業、9月入学、留学必修化はその後訪れるグローバル化時代の中で国際教養大学の躍進に大きく寄与した。英語が話せることが大企業就職に必須の時代となり、TOEIC平均900点の国際教養大学学生たちが就職率100%を実現。国公立大学入試難易度第5位に押し上げる原動力となった。また、東京大学がギャップイヤー制度と言われる9月入学を検討し、英語での授業は全国の大学へと広まりを示すなど大きなインパクトを与えた。学長選が大学内部の選挙だけでは大学の改革は進まないのではないかとの議論も出た。

そんな国際教養大学に出会ったのは4年前、2010年のことだ。当時は全国テレビでの放映もなく一般的には無名の大学。秋田県由利本荘市に総務省の地域力創造アドバイザー事業の仕事に入ることが決まり由利本荘市職員の方とキャンパスを訪れたのが最初だった。地域連携ご担当の先生と当時大学4年生のS君を紹介され大学と地域の連携を図ったプログラムで第3セクター再生に寄与できないかと話し合ったことを覚えている。S君とは高知県で再会した。建築系学生を対象とした夏合宿を高知県山間部で主宰する高知大学の学生I君を紹介し、S君に高校生向け英語合宿を秋田でやれないかと持ちかけた。そして始まったのが秋田県由利本荘市の第3セクター合宿施設「ユースプラトー」を活用した英語合宿だ。

この合宿は大きな成果を上げた。翌年には年5回の合宿を実施した。全国各地から高校生を集めることに成功し、年間延べ1000泊を達成、第3セクターの単年度黒字化に貢献、難関の国際教養大学に15名の入学者を送り込んだ。S君は「英語は秋田の地域資源、英語王国秋田」と叫んだ。またこうした成果は秋田県各地に伝搬していった。秋田県東成瀬村教育委員会は、村内の小学6年生と中学3年生全員を対象に、英語でのコミュニケーション能力向上を目指し1泊2日の英語合宿を実施した。秋田大学から留学生を招き、学習発表からレクレーションまで会話は全て英語とする合宿を実施した。秋田県教育委員会も子供たちの英語力を強化しようと、小中高校生約2千人を対象に英語しか使わない2泊3日の英語合宿「イングリッシュキャンプ」を実施した。『英語力日本一の県』を10年後に実現したい」と実に意欲的なコメントをNHKの全国放送ニュースで発した。こうした秋田県の英語教育に対する高まりが文部科学省のスーパーグローバルハイスクール(SGH)創設につながる事例のひとつになっていったように思う。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)が開始され10年。文部省と科学技術庁が合併した中で最も大きな成果と言われるのがSSH。そして来年度から始まるスーパーグローバルハイスクール(SGH)。文部科学省はSSHからSGHへと大きく舵取りを切ったとマスコミが伝える。英語教育強化に対する賛否両論がにぎわうなか秋田県から生まれたこの流れは押さえておくべきだし今後の動静を注目してゆきたいと考えている。

地学合宿(兵庫県丹波市)

秋田県由利本荘市の英語合宿の話を兵庫県で話す機会があった。講演後、兵庫県丹波市から恐竜のまちづくりを手伝ってもらえないかとの話をいただいた。丹波市は恐竜化石を7年前に発見。しかし、化石発見ブームは徐々に癒え沈滞気味。そこで恐竜化石やその他の地域資源を活用した事業を立ち上げ地域再生を図ろうと積極的な取り組みを進めている。地学などまったくわからなかったが即座に地学合宿をしようと話し合った。目をつけたのは文部科学省の高校生向け事業のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)。SSH指定校を丹波市に誘致できないか。2013年夏には横浜で開催されたSSH生徒研究発表会にも行ってきた。文部科学省局長挨拶では『東日本大震災、食糧問題、エネルギー問題、国際紛争など重大な課題に我々は直面している。社会の構造も大きく変わっている。少子高齢化、グローバルな時代、教科書に書いてあることだけで解決できない。研究とはあらかじめ答えのない問題に取り組むことだ。何とかかんとかしながら問題解決する。今求められている学力とはあらかじめ答えのない問題を解く力。学力とは知識の総体ではない、切り開く力だ。ものごとを多様な方向から見て自らが解決してゆく創造性、科学的思考力が必要だ。夢見る力が必要だ』とのあいさつが印象に残る。

感想文や日記じゃない。地域に転がっている事象や興味、地域課題を如何に客観的に相手に伝えられるか。口頭発表の中に理論的な構造を見せることが必須と感じた。高校の先生の技量も問われている。2013年に丹波市では大阪府立住吉高校、兵庫県立龍野高校生徒を迎えてのSSH実習を実施した。龍野高校生徒たちは化石発掘体験をしたことを兵庫県立大学自然・環境科学研究所の先生たちを前にして口頭発表。発表に関する講評・指導が大変有益であったように思う。共有しあう科学技術と競争する科学技術の2つがあるとすれば来夏実施されるSSH生徒研究発表会に向けた競争を前に専門家による内容の吟味・評価は重要な通過点だ

アカデミズムと教育の他の第三極ともゆうべき分野がありそうだ。彼らの活躍の場をどうやって作ってゆくのかがポイントだ。これは丹波市の役割だ。全国大会などの様子を伝えることやゴールとして米国で開催されるISEF(アイセフ;国際技術科学・技術フェア)への門戸が開かれていることなどの全体像を伝えることは我々の役割である。丹波市という非日常な環境に来て勉強や研究のモチベーションをあげる新たな契機をどうやって作るのかもポイントのように思う。

地域が地域にある教育機関と連動して教育プログラムを考える時代に入ってきていると思う。その地域の特性に応じたカリキュラムを地域にある大学や高校と連動して行うことは地域再生のみならず、教育再生へも寄与できるのではないか。地域と教育の境界を乗り越えてつながることが新たな成長を生む可能性を秘めている。

夏期英語合宿~2(2011.08.25)
夏期英語合宿~2(2011.08.25)
信州大学理学部地質科学科の丹波調査(2013.06.13)
信州大学理学部地質科学科の丹波調査(2013.06.13)